ホームコーヒーブレイク長崎聞見録 店名の由来

長崎聞見録 インデックス

タイトル

1.「長崎聞見録」 かうひい屋店名の由来

 かうひい屋の名前の由来となった「かうひい」の記述がある、江戸時代の京都の医師・広川獬(かい)が 著した「長崎聞見録」。最近は複数のサイトで本書の画像が公開されています。

広川獬は寛政2年(1790年)と7年(1795年)の2回にそれぞれ3年長崎に滞在し、寛政12年(1803年)に「長崎聞見録」として刊行しています。
 わかりやすい解説画を多用した、当時としては珍しい様式の本でもありました。後には再刊もあったらしく、人気の書であったことが伺えます。

 「長崎聞見録」は5巻から成り、珈琲に関しては下記にご紹介する第5巻からの2ページが有名で、よく引用されますが、 著者の広川獬が医学者であったことから、丁寧に書き写された「紅毛人外科箱の図」などもよく知られています。

 また、松尾龍之介氏による「江戸の<長崎>ものしり帖」は、「長崎聞見録」解説の好著として知られています。


懺悔(ざんげ)

かうひい屋を開店以来21年、「かうひい屋の名前の由来となった『かうひい』という言い方は、江戸時代(1790年代)に広川獬(かい)と言う人が 書いた『長崎見聞録』から来ています」とご説明してきましたが、実は
『長崎録』 ではなく
『長崎 録』であることが最近分かりました。
ここに謹んで懺悔いたします。


  • 「長崎聞見録」の草書の解読には、奥山儀八郎氏著「珈琲遍歴」などの参考文献の他、日本経済大学准教授の竹川克幸氏の協力をいただきました。
  • 「長崎聞見録」の解説は、松尾龍之介氏の「江戸の<長崎>ものしり帖」などを参考にしています。
  • 「長崎聞見録」の古書画像は国会図書館ホームページから許可を得て掲載しています。

2.「かうひいかん」のページ

かうひい汁いづる……草書読み解き


「かうひい」及び「かうひいかん」のページは「長崎聞見録」の第5巻の中ほどに、隣り合わせのページになっています。「かうひいかん」のページは、珈琲の器具を図で示し、草書の文章は以下のように読み解くことが出来ます。

かうひいかん
かうひいかんは。かうひいを浸すの器なり。真鍮にて製す。先熱湯を灌ぎ入れて。かうひいをひたす事なり。此器下に口あり。口の上辺にまわし手あり。此廻し手をつまみ。順にまはせばかうひい汁いづる。茶碗をもつて受納め。よき加減に入たる時。逆に戻せば。口塞がるなり図する如く也。

「かうひいかん」の「かん」は「缶」のことで、奥山儀八郎氏の「珈琲遍歴」では「罐」という文字をあてておられます。

図示された「かうひいかん」は、台付きで上下二段に別れています。ここで二つの疑問が湧いてきます。

1.上段の蓋つき部分の容器の構造は?
2.下段の出口と取っ手の構造は?


上段の容器の構造 謎その1


 上段の蓋つきの部分は、左図のように想像できます。容器の底に小さな穴が無数に空いていて、上から珈琲粉を入れ、湯を注ぎ入れます……要するにドリップ珈琲ということになります。

 無数の小さな穴とは、例えば当店にあるアンティークのサイフォンの写真(上ボールの濾過部分)をご覧いただければ想像に難くないと思います(右写真)。金属板に極小の穴を開ける技術は大したものです。

 ただしこの想像ですと、フランスのドゥ・ベロイ氏が同様の装置を作って「澄んだ珈琲」を世間に知らしめたのが1800年と言うことになっており、それが正しければ、ほぼ同年に日本の長崎出島にあることが不自然です。


謎その2 下段の注ぎ口の構造


 松尾龍之介氏の「江戸の〈長崎〉ものしり帳」では

日本には日常生活の中にネジがなかったので、絵師は蛇口の開閉する部分を描ききれていない。それはまるでコルク栓のようにしか見えない。


とあり、さらに続けて

なおこの蛇口のことをカランと言って、今日でも水道業界で使われているが、これはオランダ語で鶴のことである。言われてみれば、蛇口は鶴の嘴(くちばし)に似ている。


とあります。蛇口=鶴 と聞けば、当店でも思い当たる写真があります。

2006年に長崎・出島を訪ねた時のレポート記事、「長崎・出島の食器達」(2)で、左記のコックのついたディスペンサー(給水器)をご紹介しています。「かうひいかん」下段の注ぎ口はこのような物であったかも知れないと想像します。

なお、このように注ぎ口が細くて下の方にある場合、液体に不純物(珈琲粉など)が大量に含まれていると、目詰まりを起こして、使えなくなるはずです。その点からも、この「かうひいかん」で作られる珈琲汁は、トルコ珈琲のように珈琲の粉を含んだものではなく、ドリップ式珈琲のように澄んだものであろうと思われます。


3.「かうひい」のページ

蛮人煎飲する豆にて……草書読み解き


かうひいは、蛮人煎飲する豆にて、其形白扁豆の如く。湿り気あるやうのものにて。眞中より離れ。両片となる。其色眞黒に成程に炒りて、日本の茶をのむごとく。常々服するなり。其効稗を運化し。留飲を消し気を降す。よく小便を通じ。胸痺を快くす。是れを以て。平胃散。茯苓飲等に加入して其効あるものなり。




4.参考リンク集

ご参考
「長崎聞見録」はインターネットのアーカイブで、九州大学デジタルアーカイブで全5巻 全ページ(現在リンク切れ)、早稲田大学のサイトでは3巻を除く全ページ、国立国会図書館でも数ページが閲覧できます。
【このページの「長崎聞見録」の図は、国立国会図書館のサイトから許可を得て掲載しています】

早稲田大学図書館/古典籍データベース内の「長崎聞見録」のページ
九州大学デジタルアーカイブ・長崎聞見録……5巻全冊が画像公開されています。「かうひいかん」のページは第5巻の中ほどです。
国会図書館・電子展示会「江戸時代の日蘭交流」内の長崎見聞録のページ
「江戸の<長崎>ものしり帖」の著者・松尾龍之介のブログ「長崎日和」