ホーム コーヒーブレイク 海達公子・詩集

海達公子詩集について


 ふと思いつくところがあって、かうひい屋のページをご覧の皆さんに夭折の詩人・海達公子(かいたつきみこ)をご紹介したいと思い、このページを作成しました。

 海達公子は大正5年の生まれ、熊本県荒尾市に住み尋常小学校の初期から雑誌「赤い鳥」に積極的に投稿して高い評価を得ていました。しかし、将来が嘱望された女学校卒業直後、16才で急逝しました。昭和8年のことでした。

 同時代、同様の雑誌投稿でやはり高い評価を得ていた金子みすゞが、昨今再評価されていますが、海達公子もまた「第二の金子みすゞ」などと呼ばれて再評価著しいものがあります。

1.横書きテキスト(全文)

 昭和五十五年に出版された「海達公子遺稿詩集・復刻版」から海達公子の詩の全文です。
 主に、大正13年から昭和3年まで、ごく短い間の詩作期間です。

 作品をご覧いただく様式は、1作品ごとに表示を切り替えるスライド形式なども考えられますが、まずは数ページに分けてずらりと羅列してみたところ、見通しがよく、ご覧になる方が全体像をつかみやすいかも知れないと想像し、しばらくは、このままにしておきたいと思います。

海達公子詩集・テキスト版のご説明


 かうひい屋が、このweb版・海達公子詩集を作るために参照した本は、昭和五十五年に荒尾市文化連合会から発行された
  「海達公子遺稿詩集・復刻版」
です。

 海達公子の遺稿集は数種あり、この「復刻版」は、昭和二十六年に荒尾ペンクラブによって発行された
  「故 海達公子 遺稿詩集(非売品・会員領布)」
によるものだそうです。この復刻版は昭和二十六年のものを復刻し、かつ続編として二十六年当時掲載されなかった70作品ほどを新たに追加しています。

 このwebページの ★横書きテキスト 19~113ページまでが昭和二十六年までの復刻版で、118ページ以降が五十五年の追加分です。

 なお、正確を期してはおりますが、誤字脱字、タイプミス等のチェックは甘いと思われますので、より専門的に参考になさる場合は、原本をご参照下さい。下記によりお求めになれます(¥1000+送料)。

海達公子遺稿詩集の再復刻版について

本ページに記載の「海達公子遺稿詩集・復刻版」が再出版され、一般の方も入手可能となっています。連絡先は熊本県荒尾市・商工会議所内の
海達公子顕彰会・事務局 電話番号 0968-62-1128 まで。



規工川祐輔著 評伝「海達公子」(「赤い鳥」の少女詩人)2004年熊日出版


評伝「海達公子」

 海達公子かいたつきみこに関する情報はそれほど多くありません。かうひい屋が海達公子に興味をもつにあたって導いてくれた一冊の名著(かうひい屋の言)がありましたので、ご紹介させていただきます。


ネットが教えてくれた海達公子

 数年前、ちょっとした興味があって「森鴎外 熊本」でネット検索をしている時に、海達公子の詩に行き当たりました。
 日常の中に詩材を見いだす鋭い感性、幼いながら繊細せんさいな自然観察、また私達九州人には馴染みの深い方言の使用など、親しみや懐かしさを感じつつ読むことが出来ました。

 「森鴎外 熊本」はさておいて、「海達公子」の方に興味が移った私は、資料を求めて公子の出身校で、公子の銅像があるという熊本県荒尾市の荒尾第二小学校に電話。「海達公子に興味がある」旨を伝えると、規工川祐輔きくかわゆうすけ氏を紹介して下さいました。規工川氏に海達公子に関する著書があることが分かり、早速ご本人から購入させていただきました。


名著! 評伝「海達公子」

 規工川氏の、評伝「海達公子」(「赤い鳥」の少女詩人)は優れた作品でした。驚きました。「赤い鳥」の関係者の間で天才少女と呼ばれても、所詮しょせんは小学生。その生活の成り行きを描いてもドラマチックでもないであろうし、退屈な文章を我慢して読むつもりだった私は、第一章「公子出生」を読み始めた途端にぐいと引き込まれ、店の営業の合間を縫いながら二日間で読み終わってしまいました。

 第一章「公子出生」の出色なところは、熊本県荒尾市に育った公子が、実は長野県下伊那郡飯田町(現飯田市)に出生証明書が残るという事実に注目してその理由を追っているところです。「長野県生まれ」はすでに知られていた事実だそうですが、その理由を追う人はいなかったようです。

日本地図 規工川氏は公子の両親の里、四国・徳島県由岐町阿部の風俗を調べるうちに「阿波のいただきさん」と呼ばれる、当地から日本全国に散らばった海産物の行商人達に行き当たり、公子の祖母、母ともに「阿波のいただきさん」として生計をなしていたことを突き止めます。公子は母親の行商先の長野県飯田町で生まれたことになります。
著者の言によれば
「阿波の阿部と信州飯田町とを結ぶ太い線が浮かび上がってきた。私は狂喜した」 とあります。


お薦めの一冊

 この解明によって、公子の荒尾市での生活の基盤となった祖母と母親の行商生活も浮かび上がり、公子の実像がぐんと鮮明になってきた、と言えます。「期待しないで読み始めた」失礼な読者にとっては、予想外のスリリングな展開でした。

 第一章での著作態度に見る通り、評伝「海達公子」は客観的で具体的な資料に裏付けられた力強い作品となっています。著者は主観を強要することなく、落ち着いて公子を評し、「天才少女」の冠をつけて称揚を計るちまたの風潮にも冷静に疑問符を呈しています。その姿は、少女詩人・海達公子の在りし日を慰撫いぶするようでもあります。

 第一章でちょっとしたスリルを味わった後は、公子への興味はもとより、規工川氏の真摯なお人柄を感じつつ読み進むことが出来ました。
 海達公子に興味をお持ちの方には、ぜひご一読をお勧めしたいと思います。


ついでに一言

 ここまでお読み下さって、ありがとうございます。
 ついでながら、ではなぜ「阿波のいただきさん」が熊本県荒尾市に住み着いたのか、について。九州、特に北部九州にお住まいの方なら、ははぁと言わずもがなでうなづくところ、他地方の方々には理由が分かりにくいかも知れません。

 熊本県荒尾市は、古くから石炭の一大産地だった福岡県大牟田市の隣町なのです。かつ、両市の中心地は非常に近接しています。
著者の言をもう一度引けば
「何故に荒尾を求めて遠く来たり、居を構えたのか。一言で言えば、荒尾・大牟田地方の石炭景気をあてにしてやってきたと言えよう」
となります。

参考リンク

●海達公子
 評伝の著者が、公子の母校・熊本県立玉名高等学校(旧高瀬高女)のために書き下ろした紹介文。
●「阿波のいただきさん」の姿
  徳島県立博物館の 部門展示(人文)のページ。このページの写真に小さくですが、頭の上に大きなかごをかかえた人(人形)が二人写っています。海産物を頭の上(頂き)のかごに入れて売り歩く女性の姿です。
●くまもと文学散歩
 熊本ゆかりの文学者達を紹介するページ。「森鴎外 熊本」の検索で行き当たり、海達公子を知ったページですが、熊本国府高等学校のPC同好会の作だそうで、なかなか見事なページです。


海達公子詩集 (海達公子遺稿詩集・復刻版より)

p19

かあちやん

せなか
かいてゐた
かあちやん
うんうん
いいもつて
ねてしもた



なつぎく

小さくさいた
かばいろの
きくのにほひは
にがいなあ



p20

山畠やき

むぎわら
ぱちぱち
なりだした
けむりが
まつの木
おひこした



くもつたばん

むぎ畠の
むこうの方で
かえるが
いろいろな
こゑで
ないてゐる



p21

つゆ

雨がやんだ
ものほしざをに
ならんだせいと
「きをつけ!」



すゞめ

すゞめの
ぶらんこ
なはの
ぶらんこ
おもしろさうに
のつてゐる



p22

かさ

學校のかへりに
かさのくるまが
いくつもまはる



かげ

ままんごしてゐる
通ちやんのかげ
だるまさんに
なつている
○通ちやん………妹の名



p23

さかなとり

雨がやんだ
あみもつた
子供が川へはしつた



あせ

學校のかへりに出たあせ
うちへはいつてひつこんだ



p24

水車

だんを上ろうとしても
あがられない水車
さきの水がぴかぴか
光つてゐる



私のかほ

めだか見よつたら
うきぐさのあひだに
かほがうつつてゐる



p25

すゞりの水

すゞりにういた「ぎん」
あとから入れた水が
おつかけた



ひし

とがつたひしのみ
うらでもずがないた



p26

おみや

おみやの
たつおと
たんたんたん
大きいまつの木に
ひびいてゐる



つばなぬき

つばなかと

おもつたら
ちごうとつた
ほんとのつばなは
するするぬける



p27

すみれ

あしもとのすみれ
ふまんでよかつた



すゞめ

むぎ畠にねこが
はいつたら
すゞめがとんでいつた



p28

あさ

むぎ畠にいへのかげが
なあがうさしてゐる
○なあがう………ながく



まつぜみ

雨がやんで
まつぜみが
なきだした



p29

雨がふつて
ばらが下むいた



せりつみ

みんなおいで
こつちにうんとある
大きい大きいせり



p30

つゝみ

あをいおいけに
石なげた
じやぶんといつて
わになつた



ぽぷら

ぽぷらぽぷら
さかさになつて
うんどうばを
はいておくれ



p31

たけのこうり

おもさうに
雨の中を
竹の子
うつてとほつた



ばら

ばらのつぼみ
ふつくらふつくら
ゆうべねたまに
べんつけた
○べん………べに



p32

ぐみ

ぐみのちやうちん
ひがついた
小人のちやうちん
べんちようちん



まつむし

まつむし
なき出した
青い山



p33

夕日

もうすこうすで
ちつこうの
さきにはいるお日さん
がたにひかつて
まばゆい
まばゆい
○がた………干潟
○ちつこう………築港



ごんげんさん

おほきなまつが
うんとある
ごんげんさんは
すゞしいな
きらきらお日さん
てつてても
ごんげんさんは
すゞしいな
せみのおうたも
すゞしいな


p34

ゆうだち

ゆうだちゆうだち
ばらのはがをどり出した



かげ

お日さんが
青い田の上を
白いくもにのつて
はしつていつた



p35

白ゆり

白いゆりのちくおんき
そうつときいてみましたら
すきなしようかがきこえたよ



うま

田をすいてゐる
うまが
水にうつゝてゐる



p36

つゆ

いものつゆ
ころつころつおちた



にじ

にじが出た出た
二つ出た
こいのと
うすいのと
二つ出た



p37

にじ

にじがたつた
三日月さんより
大きいなあ
三日月さんより
きれいだなあ



川口

がたの中に
すわつたふね
ほばしらの
高さあ
○高さあ………高いなあ



p38

うんぜんだけ

うんぜんだけが
青うして
すゞしい



うんぜんだけ

ようと見える
うんぜんだけの上に
白いくもが
ちよつとある
ようと見える………よく見える



p39

きうり

きうり
うつにほひ
二かいまでしてきた
○うつにほひ………きざむにほひ



ものほしざをに
みぞの水が
うごいてゐる



p40

かぜ

田の中から
すゞしいかぜに
まじつて
あつい風が
ふいてくる



うめ

本箱に
入れておいた
あをいうめ
きいない
にほひの
し出した



p41

うま

かへるの
なきやんだ田で
うまが
一こゑないた



もも

ももに
ナイフの
にほひが
ついている



p42

てふてふ

雨がやんで
白いてふてふ
ぐみのはに
とまつた



うきぐさ

田の中の
うきぐさ
あたつぽに
よつとる
○よつとる………よつている



p43

おみや

田の中の
おみやの
もりから
うたが
きこえる



すいてゐる畠から
土のかぜがふいてきた



p44

け虫

ぽぷらにさがつた
け虫のいとが
夕日に光つて
ゆれている



水のかげ

金ぎよばちの
水が
天じやうに
うごいてゐる



p45

つゆとり

しものやうに
ひかつてゐる
いものはに
ゆびのさきで
七夕さんと
かきました



おみや

おみやのもりから
たんたんたん
おみやのたつおと
たんたんたん



p46

すゝき

さらさらすすき
お山のすゝき
おててのばして
なにさがす
あおいお空に
なにさがす



くり

ごんげんさんの
松の木の下で
男の子が
青いくり
むいてゐる



p47

夕日

さらさら
すゝきが
夕日に光る
すつすすつす
とんぼも
夕日に光る



かんな

まつかな
かんなの花
目がちらちら
してきた



p48

やなぎ

やなぎの
えだが
もつれたり
ほどけたり
してゐます



かいこ

私のかいこさん
はことはこのあひだに
いとひいてゐます



p49

くさぬき

花畠
つくらうと
おもつて
かたい土の
くさ
ぬきました



コスモス

コスモスの
そばに
たくさん
はえたくさ
みんな
ぬいてやりました



p50

あり

大きなもの
ひいたあり
あつかろう



ゆうだち

ゆうだち
やんで
日がてつた
白い
にはとり
こけつこう



p51

まゆ

まつ白なまゆ
まるう
ひかつてゐる



はぜ

きのつかんぢやつた
はぜの木が
松のあひだで
赤うなつた



p52

かしはもち

かしはもち
むいたら
ひほひのした



かぜ

くもまで
とどいた
おみやの
松の木
ざあざあ
ざあざあ
なつてゐる



p53

やなぎ

おいけに
うつつた
やなぎのは
ひかつてゐる



なし

ひやしたなし
たべてゐたら
くだまきが
なきだした



p54

きんぎよ

お池にしづんだ
きんぎよ
どうもせんけん
ういてこい
○どうもせんけん………どうもしないから



花うり

かみいよつたら
「お花いんなはらんか」と
うつて通つた
○かみい………髪結い
○いんなはらんか………いりませんか



p55

お日さん

お山の上が
光り出した
お日さんの
上る道
あすこ
あすこ



うき草

小さい小さい
うき草
池いつぱいで
あゆべさう
○あゆべさう………あるいてゆけそう



p56

きり

きりがかゝつて
ごんげんさん松の木が
うすう見えた



すずめ

すずめが
屋根から屋根へ
とんでゐる
麦も
さらさら
なつてゐる



p57

ひばり

あそ山のけむり
見てゐたら
ひばりが
なき出した



夕方

なたねが
きいない
向ふの方に
人のせた馬が
ぼつぼつ通る
○きいない………きいろい



p58

日のくれ

ぼうとした
お月さん
畠のけむりが
山一ぱい
ひろがつた



あをあをした山
しづかな山
けむりがうすう
上つていく
○うすう………うすく



p59

女の人

たきもん
かるうた人が
まいかけで
あせふいた
○たきもん………たきもの
○かるうた………かついだ



あさ

かすみが
こゆうかかつてゐる
麦の葉が
ひとつもいごかん
○こゆう………濃く
○いごかん………動かない



p60

あさの風

麦の葉が
つぎからつぎへ
お早ようお早よう
してゐます



こうさぎ

こうさぎに
草をやつたら
大きいのがきて
おつとつてたべた
こうさぎには
かくしてやつた
○おつとつて………とつて



p61

桑の葉

桑の葉
のびてきて
みぞのそこに
うつつてゐる



ひる

学校からかへつたら
うちにはだれも
おらんじやつた
時計と
とうこのおゆとが
なつてゐた
○おらんじやつた………いなかつた



p62

お池の風

お池の水が
ちりめんのように
ちりちり
してゐます



お池の水

お池の水が
風にあつちへ
つれられていつた



p63

汽車

夕方
花畠の
草ぬきがしまへた
何時の汽車か
くだつていつた
○しまへた………終つた



なたね

なたねの花が
お日さんの
ましたにある
あんまり
きいない



p64

かすみ

向ふの山の
かすみがうすい
麦のほが
私のせいより
大きさう



つばめ

うちへきた
つばめ
すを
つくり出した



p65

すず

ひきだし
あけた
すずがちりちり
ころげてきた



ばら

ばらのはが
ゆれてゐる
ゆうらゆうら
ゆれてゐる



p66

ぬくいひる

学校で
はおりをぬいだ
かへつて
れんげさう
つみにいかう



麦の葉のかげ

麦の葉のかげ
つぎのはに
うつつてゐる



p67

ざう
ざうにのつた
はなを
あたまに
持ってきた
からいもやつたら
口へ持っていつた
たべよるかと
おもつたら
又あたまへ
持ってきた



つる
つるが
羽ひろげた
お日さんの方を向いて
羽ひろげた



p68

さくらの花びら
さくらの花びらが
花畠一ぱい
ちつてゐる
お日さんが
てつたら
ふわつとしたように
見え出した



お日さん
金ぎよばちの
そこにある
お日さん
やつぱり
まばゆい



p69

日のくれ
日がくれた
どこでもくらい
空だけあをい



もも
机の上に
ももの花びら一つ
ふわつとおちている



p70

つゆ
ものほしざをから
おちたつゆ
どこかに
かくれた



つばめ
つばめのはらが
お日さんに光つた
あをいお空に
ちらつと光つた



p71

ポプラ
ポプラのはつぱが
ゆれている
ちらちら
光りながら
ゆれてゐる



てふてふ
てふてふが
ひらひらとんできた
もちつと向ふへ
とんでいけ
あまちやの花が
さいてゐる



p72


とうふ屋のけむり
お日さんのところへ
上つていつた
きりのかゝつた朝



はち
はちが
すにとまつた
子にみつを
すわせるのだらう
もうばらの花は
ちつてしもた
○ちつてしもた………ちつてしまつた



p73

麦のほ
お日さんに
光つてゐる
麦のほ
かすみのかゝつた
山より高い



小麦
ひよろひよろした
小麦
雨にゆれてゐる



p74

つばめ
つばめがかやつて
すうつととんでいつた
早いな
虫を見つけてやらうか
○かやつて………かえつて



さかなとり
雨がやんだ
さかなとつてゐる
子供のそば
通つた人
「なんびきとつたか」
と聞いた


p75

涼しい朝
さかなつつてゐる子
涼しい風に
ふかれながら
ぢいつとすわつて
つつてゐる



はち
はちが
風に
ふきとばされた
向ふにゆりが
さいてゐた



p76


にほひのする田
ときどきなくかへる
百しやうやのけむり
あついあつい




牛が
よだれくりながら
通つて行く
海水浴に行く道
○よだれくりながら
………よだれをたらしながら



p77

お日さん
しほのひきかけた
海で
お日さんが
およいでゐる
つかまえやうとしたら
つかまえられんじやつた
○つかまえられんじやつた
………つかまえられなかつた



頭のかげ
蓮の葉に
頭のかげが
ゆつくり
はいつてゐる



p78


つるのはらに
水のかげが
ちらちら
流れていく



つゆ
桑の葉のつゆ
むらさき色に
光るつゆ
おちるなおちるな
晝までおちるな



p79


向ふの山の上が
光り出した
松の木も
光り出した



稲と風鈴
田にうつつた
ちいさい稲が
ちらちらちらちら
うごいてゐる
私のうつつた
ふうりんが
ちりちりちりちり
なつてゐる



p80

汽車の音
汽車の音が
雨の音にまじつて
停車場についた



くもつてきた
光つている
草のつゆ
かへるが
なき出して
きえてしもた
○きえてしもた………きえてしまつた



p81

すずしい風
田の上を
白い風が
走つていつた
ふうりんに
私が動きながら
うつつてゐる



雨上り
雨が上つた
母ちやんが
おえん
ふいてゐる



p82


田うえに
ついてきた犬
なへを
かざんでゐる
○かざんでいる………嗅いでいる




あぜ道を通る犬
田にうつつてゐる



p83

ポプラ
ポプラの葉が
白い
あたまふりふり
白い



ポプラ
ポプラの音がする
汽車が
だまつてついた



p84

なんてんの花
なんてんの花
はちが
おとしてゐる



かへる
小さいかへる
浮草に
のらうとした



p85

すずめ
すゞめが
麦わら
くわへてとんだ



には鳥
一番鶏が鳴いた
ポプラの葉が白い



p86

なはしろ
なはしろが
青い
子どもが
見て通る



みぞの水
雨が上つた
みぞの水が
つまらずに
流れていく



p87

しそ
二かいから
おりた
しそのにほひの
してきた



大雨
田の上を
雨のけむりが
走る走る
向ふの山
ひとつも見えん



p88

ばら
まつかい
まつかい
ばらの花
目にはいつて
ゐるうちに
目つぶつて
母ちやんに
見せにいこ



つばめのかげ
ばらの葉に
ちらつと
うつつた
つばめのかげ



p89

せみ
青ぎりで
ないてゐる
せみ
耳の中でも
ないてゐる



ダリヤ
まつかな
ダリヤ
青々した葉
雨の上つた晝



p90

つばめ
池にうつつた
つばめ
上るほど
底に行く
青い山が
はつきり
うつつてゐる



お月さん
ぼんのお月さん
ふとう出かけた
見てゐるうちに
みんな出た
○ふとう………大きく
○出かけた………出はじめた



p91

いなびかり
いなびかりが
してゐる
お月さんが
雲の上を
通つて行く



やなぎ
ゆれてゐる
やなぎ見てゐたら
すゞめがとまつて
ないてゐた



p93

すずめ
向ふのあぜを
通る人
手たゝいたら
すゞめが
ぱあつと
とんでいつた




きやうちくとうの葉が
光つてゐる
「美」がひなたでねてゐる
通ちやんおえんで
行李のお舟に
のらうとしてゐる
○「美」………猫の名



p94


雲が山のかたちに
なつてゐる
山がしづかに見える
私はかほ
あらつてゐる



くは
畠かやしてゐる
母ちやんのくは
ざつくざつく
音がする
○畠かやしてゐる
………畠をかえしている



p95

桑の葉
お日さんが出た
桑の葉が
すき通つた



かゞし
すゞめが
かがしを見ていつた
おかしい人だと
見ていつた



p96

日曜の朝
日曜の朝
みんなゆつくりして
かみゆはずに
遊んでゐる
○かみゆはずに
………髪結わずに



けむり
お日さんが上つた
百しやうやのけむり
ふわふわ
ひろがつてゐく



p97

はと
道のまんなかを
はとが歩んでゐる
通ちやんが
つかまえやうとしたら
とんでいつた



子ども
山へのぼる
子ども
葉の落ちた
木の間から
ちらちら見える



p98

すずめ
金の雲に
のらうとした
すゞめ
のられんので
とんでいつてしもた
○のられんので
………乗られないので
○いつてしもた
………いってしまった



うた
かすみの
うすう
かゝつてゐる
山から
うたが
きこえてくる
○うすう………うすく



p99


さくらの花ぶら
ひらつてゐたら
どこかで
牛がないた
てふてふも
とんできた
○ひらつてゐたら
………ひろっていたら




海が光る
半分から
こつちが光る



p100

木のかげ
浅い川を
木のかげが
流れていく



雲の上つた山
はぜがまつかに
染んでゐる
松の木が
一つ一つ
見えてゐる
今朝の山は
近いな



p101


海が光る
すゝきがゆれて
にほふ野菊



星さん
青い星さんが
動く
風のつめたさ



p102

学校
學校へきたら
たつた一人であつた
机たたいたら
教室一ぱいひびいた



目高
川のふち
通りかかつた
ぱあつと
ひろがつた
小さな目高



p103


おたまじやくしが
つつつおよいでゐる
柳の赤い根の下を
鮒が
明るうおよいでゐる
○明るう………明るく




かげになつてゐる
山の下の桃の花
目立つて見えてゐる



p104

もものつぼみ
もものつぼみ
つまんだら
ふわつとした



さくら
雨がやんで
風が吹いている
屋根に
さくらの花びらが
ひつついている



p105

日のくれ
ごはんのこげる
にほひがしてきた
夕やけ雲がのこつてゐる



ぼたん
まつかな
ぼたん
今洗つた
私の顔



p106


雀が一しよに
ひろがつた
音の寒さ



ぬくい晝
ぬくい晝だ
鉢の小菊が
にほふてくる
向ふを見たら
ふだんそう畠が
もりあがつてゐた



p107


小さい蛙
大きい蛙
運んでいく蟻を
しんから見ている
○しんから見ている
………いつしんにみてゐる




鯉のせなかを
波の
光とかげとが
うつつていく



p108

雲雀
雲雀よ雲雀よ
見てきておくれ
れんげが咲いたか
見てきておくれ



秋の朝
朝顔が少ししか
咲かんやうになつた
こほろぎが
どつかでないてゐる
足にさわつた夏水仙の花も
しぼんでゐる



p109

紙鳶
初日の上つた
大空に
たこがいくつも
上つてる
だんだん
高くなつたたこ
どこの旗でも
見えるでせう




初日を拝みに
通ちやんが
障子をあけたら
光がぱあつと
おかがみもちをてらした
おかがみもちが
なお大きう見えた



p110

國旗
わたしのたてた
日の丸が
今出た
お日さんと
むきあつた




うちの畠で
鳥がないた
障子をあけたら
ぼたん雪が
ちらちらちらちら
ふつてゐた
目のまひさうに
ふつてゐた
鳥よ畠は
つめたかろ



p111


ふわつとつんだ
雪の上を
雀がちよつちよと
あゆんでく
足かたはちよつちよと
ついていく




星が
遠いあかりのやうだ
虫の聲がきえさうだ



p112

お日さん
雲雀と雲雀と
なきあつてゐる
まん中に
白いお日さんがういている



雨上りの朝
雨上りの庭の
明るさ
ばらのつぼみが
はちわれそうだ



p113


しようじのそばへ
手をやつたら
うす寒かつた
雨の音がまだしてゐる



百舌鳥
まだ刈つてない
田をはさんで
百舌鳥が二ひきでなきあつた
朝日の光のつめたさ


p118


むぎぶえ
むぎぶえ
ピイピイ
ふくたんび
ぼうしのひさし
ピイカピカ


とんぼ
くさにとまったとんぼ
はねがひかつてゐる


つばめ
つばめ
ひかるかまあぶないぞ



p119


ばら
ばなの花
二かへから見たら
やねにかくれて
一つしか見えん


おみや
田の中の
おみやのもりから
うたがきこえる


きんぎん虫
かやのさきにとまった
ぎんぎん虫
かぜにゆられている



p120

たうきび
たうきびのかんげ
やはらしう
光つてゐる


きりぎりす
水あびのかへり
きりぎりすがないてゐる


山道
花とりに
山道通つたら
むうつとした



p121


あつい山道
あつい山道
かきのはがくろう
光つてゐる


なし
ひやしたなし
青いにほひのした



田にうつつた
私のかげが
ういたりしづんだり
してゐます



p122



とひ
雨のあさ
竹のとひの下がはに
田がうつつて青い青い


ひがん花
ひがん花がさいている
おはかまゐりの道ばた


すずめ
しやうじに
うつつてないてゐるすゞめ
そうつと見にいつたら
しやうじの
にほひがした


p123


をみなへし
をみなへし持った男の子が
ごんげん山から
おりてきた


もづ
もづのなきごゑが
あたらしいしやうじに
ひゞいた



赤うなつた畠のあぜを
子がろた
男の子が
には鳥のまねして
うたつて行つた

・子がろた……子を背負った


p124



には鳥
しもの朝
かつたあとの田で
には鳥が
もみひろつてゐる


かげ
松の木のかげが
ほかの木に
うつつてゐる



しものふつた朝
山の上の
光る雲
まばゆうして
見えきらんじやつた


p125

麦とまめ
麦麦
ほそい
めを出した
まめまめ
まるい
めを出した


お日さん
山の上が
光り出した
光る道を
お日さんが上る


にはとり

着物きかへよつたら
どこかでにはとりが鳴いた


p126



ひばり
どこかでひばりが
ないてゐる
下をむいたら
小さいこゑになつた



かすみのかゝつた山
麦畠のつゆ
赤いばらのめ


葉げいと
葉げいとの
赤さ
前のとみちゃんが
今おきた


p127



雨上りの朝
庭にかさ
ひろげてある
うらの田の
青さ


夕方
からいもほつてゐたら
こうろぎが
ないてゐた
きくのにほひが
してきた



星が青う光る
空の遠さ



p128



星さん
山が鳴つて行く
動く星さんの青さ



かへるのないてゐる田
桑のかげが
長ううつつてゐる
かまやから
火もやすにほひのしてきた


もず
かほあろて
おえんに出たら
もずがないて
稲のつゆが光つた

p129



寒い朝
しやうじあけた
「あゝ寒さ」
鳴つてゐる




霜の降つた麦畑
せきれいの聲が
波になつてとんでいく
向うにお日さん
まつかいな


すみれ
てふてふを負うて
下りてきた
土手ですみれを
見つけた見つけた

p130



月夜
戸あけた
明るい麦畠
電信の音が
ひゞいてゐる


しんぎくの花
目立つて見える
しんぎくの花
ゆうべの雨の
にほひが残つてゐる


松ぜみ
ふくらんだばらのつぼみ
松ぜみが
なき出した


P131



ばら
ねどこから見た
赤いばらよ


ばら
みつばちの
音がしてくる
ばらの赤さよ


ばら
まつかに咲いた
ばらの花
虫にくはれた
葉の中に


P132




石をかゝへた
潮のにほひがした

夕日の光
竹の上にのつてゐる
夕日の光
赤いよ



稲をなでていつた
手の露がにほうた


p133



螢草
今流した螢草
よしの葉を
よけていつた


霜夜
お月さんが
はちわれさうな
霜夜だ


算術
算術がよく出来た時間
先生にあまえたう
なつてきた


P134



白い朝顔
葉がうつつて
うす青い朝顔
そばへいつて見たら
白光りに
光つてゐて
蟻が一ぴき
おくの方を
はうてゐた



松蝉がなき出した
松葉の光の強さ


P135



もず
もずが鳴いた
田に立てた
一番高い
竹の先で鳴いた
又鳴いた

祭の朝
桐の花が咲いてゐる
青い空
今日は長洲祭だ



きりの中から
つるべの音が
ながれてくる
ざくろの花の赤さ


P136



ばら
花びらの
かさなりあつてゐる
ばらの花
にほふと
にほふほどにほふてくる


月夜
盆の月の明るさ
雲は遠くへ
いつてゐる
うたをうたつてゐる
通ちやんの聲が
空一ぱいに
ひゞいてゐる


P137


雨の夕方
傘をさしてうらに出たら
ぽろぽろ雨に
萩の花はぬれてゐて
雨をためてゐる葉が
つめたく光る
こほろぎは
おえんの下でないてゐる


曇つた朝
雲つた朝だ
残つてゐる線で
石けりをしてゐたら
冬雲雀の聲がした
うす霧のかけた
山の方で


P138


つめたい朝
ざくろの冬芽が
ひかつてゐる
ひよつと
空を見たら
雲のあひだから
日の光がさしてゐた
まりをついた手に
いきをかけた


ばらのつぼみ
がくのひらいたばらのつぼみ
つまんで
はなしかゝつたら
指についてふくらんでくる
山本さんが
「海達さんいこーい」と
さそひにきなさつた


p139


百舌
百舌がないた
霧をとほして
百舌がないた
雲の間の
空の青さ


落穂ひろい
麦の穂をひらふ
おばあさん
袋をからうてゐる
どこの
おばあさんだらうか
雲仙嶽も
くれかゝつてゐる
どこの
おばあさんだろうか


p140


夜あけ
うす明い空に
夜あけの明星が
のこつてゐる
ひやひやする朝だ
ざくろが黒く光つてゐる


朝の虹
日のてり雨に
虹がかゝつた
露をとつてゐたお膳おいて
虹に向かつて手をあげた
七夕さまの朝の虹


p142


千鳥
波うちぎはを走つてきた
さくさく足かたをつけて走つてきた
杭のところまで走つてきて
ふりむいたら
足かたはみんなきえてゐた
千鳥がかたまつて鳴いて行く



もう御大典もすんだ
畠をすく馬の息が
ぽつぽつすすんでいく
向うの畠の青菜
朝陽にひほひさうだ


P143



ぬくいおえん
ぬくいおえんにすわつて
山の方を見てゐた
うすい霧のひいた山に
はぜ紅葉がぼうつと見えてる
ぽんぽん
てまりの音がはずんでゐる


夕日
真赤な夕日
大きな夕日
今はいらうとして
もえてゐる夕日
テニスしてゐなさつた
今田先生が
夕日を見ながら
汗をぬぐひなさつた


P144



朝日
山道を通りながら
男の生徒が
栗をおとしてゐる
出はじめた朝日
山道から出る朝日
立ちどまつて拝んだ


秋の朝
顔洗ひに出た
ひやつとした空気
うすぎりのひいた稲田
しいんと穂がたれてゐる
るりいろにすんだ空
細い月に光りがのこつてゐる


P145


日の暮
汽車の音も
とうとうきえてしまつた
野菜のすぢが
白く光つてゐる
見上げた空
半かけ月が
こほつてゐた