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2019-05-27長崎 出島の食器達

2006年の記事をほとんどそのまま再掲載しています。

長崎出島の食器達 インデックス


 2006年7月16日(日曜)、長崎・出島を訪ねました。出島は現在、建物の3分の1?ほどが復元されています。建築様式や間取り、調度品などそれぞれの興味によって見所は様々だと思いますが、かうひい屋がついシャッターを切ったのはテーブルの上の食器類でした。

 お楽しみいただければ幸いです。

1.テーブル1 背の高いポット

 テーブルの上にはカップの他、シュガーポット、ボール、ミルクピッチャーとおぼしき磁器、そして右側には背の高いポットがあります。


 カップの容量は、右のウエッジウッドの有名な製品とほぼ同等かお尻が細い分、小さいかも知れません。紅茶カップなのでしょう。大きさのわりには取っ手が小さく、つまむタイプです(指が入らない)。

 しかし、取っ手をつまんだ時に指の流れが良さそうなので、安定感はあると思います。例に出したウエッジウッドのカップよりも薄くて軽いように思いました。ソーサーが深いのが印象的です。

 部屋の片隅でぐいと突き出た印象のポット。全体は50センチくらいありそうです。ポット自体も背が高いのですが、その下に台座があります。模様で網目状になっていて中にアルコール・ランプかろうそくを入れて熱を加えるようになっているようです。


2.テーブル2 酒器セット

 先ほどのテーブルの反対側の窓際に素敵に飾られた酒器セット。あまり写っていませんが、椅子が同じセットではなく、デザインがバラバラなのは復元のご苦労なのかも知れません。

 テーブルの左側に白い木製のゴルフパットのような恰好をしたものがあります。むしろ、パイプの柄がとても長いと表現した方が良さそうです。これはたくさんあり、別のところにも同様に立てかけてありました。

 柔らかそうな木肌そのままの素朴な作りで、下の太くなったところにはパイプのような大きな穴があります。お客さんに勧める使い捨てのパイプ??。そんな想像もしたのですが、これの利用法は確かめてきませんでした………。

2019年5月末、上記「パイプのようなもの」について、解決を見ました。「13年越しの謎解き 早く聞けばいいのに……」もご覧下さい

3.テーブル3 カラン付きディスペンサー

 手前のお盆にはカップ、シュガーポット、ピッチャーの他、磁器製のポットもあります。後ろのポットも秀逸です。左奥に写っている、室内用の湯沸かし?も見逃せません。


 カップは、これはコーヒー用だと決めつけて良さそうです。容量は、8分目まで入れて約100ccほどだと思います。少し濃厚なコーヒーと考えるとちょうどよい大きさです。シェイプは唇の触れ具合が良さそうなカーブを描いていますが、飲み口の先端は意外に分厚そうです。

 底が丸いですが、このカップが正確な復元だとすれば、コーヒーはトルコ式ではなく、漉したものではないかと、うがった推理も出来ます。トルコ式の場合、丸い底だと下に沈んだコーヒーの粉が移動しやすく、飲みにくいかも知れません。

 このテーブルもポットが面白いです。二つの取っ手を持って、両手で抱えるタイプですね。ポットと言うより配給器、ディスペンサー………何というのでしょう。足が3本あります。その下にアルコールランプかローソクを置いて加熱するようになっています(ポットの下の黒い部分)。

 秀逸なところは、三方にコックが付いていて、テーブルの真ん中に置いて、お客が自分で好きな時に飲み物を取り出せるようになっています。

 そのコック、写真では背景と同色でよく分かりませんので、写真に細工をしてポット以外の周りの背景を薄くしてみました。こうしたコックが120度ごと、三方に付いています。

このコックの形状は、オランダ語でカラン(鶴)と呼ばれ、現在でも日本の水道関連で、蛇口を意味する用語として残っています。

 「室内用の湯沸かしも見逃せません」とは書きましたが、ものは言いよう。私も写真に写っているのを後で発見して、「面白い」と思っているところです。テーブルで隠れてしまって。惜しいですね。


シャンデリア。もちろん今は電気ですが、暖かみのある光を投げていました。天上の壁紙も当時の復元だそうです。


4.出島の調理部屋

 長崎・出島の食器達(1)(2)は復元なった出島の建物の2階部分でしたが、調理部屋は1階にあります。

 現在は長崎歴史文化博物館に所蔵されている、川原慶賀筆の「蘭館図」のコピー。調理部屋に入ってすぐとのところに掛け軸状にして飾ってありました。この絵を参考にして調理部屋の復元を行ったようです。

 手前右では、豚の解体が始まり血を出しているところです。左では日本人を含む東洋人らしき3人が乳鉢を使ってなにやらすり潰しています。奥の方左手では6人の西洋人が肉を調理しています。右手奥では竈(かまど)で煮炊きしている人がいます。スープを漉し取っている人もいます。 もう少しきれいな写真だとよかったのですが。

 テーブルの上には豚の頭。この豚の頭は宴会用にしつらえた他のテーブルにもありました。口にくわえているのはリンゴのようでした。出島に出入りの日本人は、西洋人の暮らし向きには慣れていても、豚の頭には「異国」を感じたかも知れません。

 テーブルの奥の方、一見魚に見えましたが、やはり肉類のようです。手前の方にある野菜類は、ジャガイモ、セロリ(家内の推測)、トマト………。

 館内ではフラッシュが使えず暗がりでは手ぶれの写真ばかりでしたが、午後4時過ぎの陽光が気持ちよく入り、案外な写真が撮れました。

 ピントが怪しいですが、右側に2本ほど写っている杓子(しゃくし)。右の方にあと3本ありましたが、なぜか全部網杓子(あみじゃくし)でした。鍋、包丁、壺、ビン、大鍋などがあります。 杓子の左にかかっている棒状のもの、これは洋包丁を研ぐ道具ではないかと思いました。

 ガラス越しの写真。香料などをすり潰す大きな乳鉢です。陶器製ではなく石のようです。さらに視線を落とせば、床材も古いものを使っていますね。


5.長崎・出島の食器達・後記

出島を訪ねました

 7月16日(日曜日)、かねてから気になっていた司馬江漢作製という阿蘭陀茶臼(おらんだちゃうす・コーヒーミル)の実物を見るために昨年新装なった長崎歴史文化博物館を訪ねました。その後、これも新規に復元された「出島」を訪ねました。

 阿蘭陀茶臼についてはまだ調べたいこともありますので、後ほどにさせていただくとして、「出島」に陳列されていた食器をご紹介させていただきました。

 長崎歴史文化博物館では、写真撮影禁止のためデジカメは一度も取り出さずじまいでした。「出島」では写真OKでしたが、フラッシュ禁止。薄明かりの中では、私のウデでは手振れたっぷりの写真しか撮れませんでした。が、70枚近くシャッターを押し続けた中には数枚お見せ出来そうな画像がありました。「数打ちゃ当たる」の世界です。

「復元」とは何か

 シャッターを押しながら、疑問を感じていました。さてこれらの食器類は本当に正確な「復元」なのだろうか。一口に復元と言っても、思いを巡らせてみれば素人にも様々な問題が浮かび上がります。

 出島は1635年(寛永12年)~1856年(安政3年)の間機能し都合200年以上の歴史があります。その間、日本は鎖国中だとはいえ、西欧列強は海外進出凄まじい時代でした。生活様式も多様に変化していったはずです。コーヒーで言えば、トルコ式で、イブリック(コーヒー用の小さな鍋)の中にコーヒー粉と水を入れて煮出して飲んだ時代(カップに粉が入る)から、ドリップ式やサイフォンなど漉されたコーヒーの時代までが含まれます。

 さて、どの時代を切り取って「復元」したのか。それはどの程度の正確さを期して復元されたのか。例えば、調理部屋のテーブルの上にはジャガイモの他、トマトやセロリがあります。辞典によれば日本では昭和に入ってから一般の食卓に上るようになったようです。

復元の難しさ

 つい素人の揚げ足取りをしてみたくなりますが、思いの至るところは失われた時代を復元することの難しさと、それを一般の観光客たる私達に提示してみせることの難しさです。復元に携わった方々には一つの復元物を飾るにしても喧々囂々(ケンケンゴウゴウ)の議論があったのではないかと想像します。出島に飾られた食器達も、学問的な正確さを期した復元であるよりも、観光客に出島の雰囲気を味わってもらうという方向性の方を強く感じました。

 今回の長崎行きは若い歴史研究家のTさん夫妻が同行してくれました。コーヒーミルを見るという一つの目的があったために、少し緻密に眺めることが出来、物を漫然と眺めるだけよりも、より深く歴史や、歴史を探究する現場を感じながら見ることが出来たのは幸せなことでした。

 帰りの車中では長崎歴史文化博物館の評価が高かったのですが、私は天の邪鬼にも「出島」の方に興味が向いていました。博物館の「本物」の展示には「そうなのか」と肯くしかなかったのですが、出島の展示には自ら疑問を発し、復元の難しさに思いを巡らせることで、「自発的に」歴史を楽しめたように思います。

 それほど遠くないうちに、また長崎・出島を訪ねてみたいと思います。その時はグラバー園他の観光地にも足を伸ばしたいものです。

蘇る出島
私達が訪ねた長崎・出島のホームページ
オランダ大使館・日蘭交流の歴史
 私の素朴な疑問「出島にやってきたオランダ人達は、嫌々ながら赴任したのではないだろうか」に対する答えがあったページ。答えは「いや、赴任希望者が多かった」。その理由は………。
ウィキペディア(Wikipedia)・出島
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東京大学コレクションXVI・シーボルトの21世紀
大場秀章氏の論文。シーボルトが日本に至る個人的野心と離日後を冷静な筆致で解説

個人の楽しい旅行記へのリンクもあったのですが、10年の間にリンク切れになってしまいました。

改定時に追記:
「蘭館図」はこのページで、もっと良好な画像を見ることが出来ます。記事もより専門的で、本ページより面白いですが、どうぞ帰ってきて下さい(笑。