前のページに戻る

2020-05-07 福岡のラーメン

替え玉事件

福岡市周辺の豚骨ラーメンは、全国的にも有名です。

私ども夫婦はそれほどラーメンを食べる方ではありません。なぜなら、昼間はかうひい屋の営業で、他の店に行って外食をすることがほとんどない生活でしたし、たまに夜の外食になると、家内が「ラーメンだけで夕食になるのは、栄養のバランス的にいかがなものか。チャンポンならOK」という意見だからです。「餃子も食べる」と言うことで、手を打ってラーメンを食べることはあります。

それでも本場だけあってラーメンの話題には事欠きません。

替え玉文化

福岡市周辺のラーメン文化の、一つの特徴は「替え玉」だと思います。ラーメンのスープを残して「替え玉」を注文すると、麺だけを茹でて提供してくれます。

福岡市周辺では「インドカレー専門店」にも「替えナン」というものがあります(どこにでもあるわけでは、ありません)。ヨソの人から見れば意表を突いたメニューでも、替え玉文化圏にいると普通に見えるから不思議です。

今は替え玉文化は福岡市周辺以外にも広がっていますが、昔は「地方」では見かけることはありませんでした。おそらく、豚骨ラーメンの中でも「長浜ラーメン」と呼ばれる、細麺で、茹でやすく、伸びやすい麺の性質からきた食べ方ではないかと想像します。

港湾の街の長浜の、肉体労働の屈強の男がラーメンの「大」を頼むと、終わりの方は伸びてしまう、ならば2回に分けて……。

替え玉のスタイル

   

麺の茹で方は、最近は上の写真のような「てぼ」と呼ばれる網に一人分を入れて茹でる店が多くなりましたが、伝統的なスタイルにこだわる店では、大釜の湯の中に人数分の麺を全て入れて、下の写真のような平たい網ですくい上げ、湯を切って、お客さんの丼に取り分けます。

 

替え玉は普通は、茹でた麺を器に入れて出しますが、カウンターの場合は、店主さんが網ですくった麺をそのまま、カウンターのお客さんの丼にザッと入れるところもあります(現在は、そんなスタイルは残っているでしょうか)。これは「てぼ」では出しにくいので、平たい網専用のスタイルだと思います。

「替え玉下さいっ!」

替え玉事件は、「平たい網の店」でした。そして、網のままお客さんの丼にザッと入れる店でした。

友人と4~5人でカウンターに並んで座り、全員ラーメンを注文しました。食べ始めてすぐに私の隣の友人が小さな声で

「あ、あれ?麺が入ってない……」

と言いました。見ると持ち上げた箸には数本の麺がかかっているだけでした。私は笑いながら、「麺が入ってない、と言えば?」と言いかけると、その友人は、

「替え玉下さいっ!」

と言いました。「おお、そう来たか」と笑いながら食べ続けていると、店主さんがすぐに

「はい、お待ちどう」

と、私の丼に替え玉を入れてしまいました。「おおっ」と驚いているとその友人がまた

「替え玉下さいっ!」

……

別に怖そうな店主さんでもなかったので「麺が入っていませんよ」でもよかったのですが、ことの成り行きで、私は腹一杯で苦しい思いをしながら店を出ました。

てぼ、網の写真 出典
てぼ アマゾン
平たい網 光厨房